2018/03/01

ビアマグ磨き直し


20年ほど前に譲り受けたというドイツ製ピュータービアマグの磨き直しです。
依頼内容は、

  • 取っ手付け根部分の白い腐食と内底面の縁の汚れの除去。
  • 傷跡はそのままでも構わない。(除去無し)
というものです。

白い腐食部分はロウ付け接合に使う薬品が除去されていないもので、こびり付いていました。ロウ付け後すぐに洗い落とすものですので、後から外れたため別の人が付け直したのかと思いましたがわからず。底部分はロウ付けによる底板接合で、その接合の溝部分に汚れが付着したものと思われます。磨き直しは鏡面までは不要で、小傷も気にならず、これから使用していくための磨き直しということでした。



腐食箇所を除去するとその部分だけが綺麗になるため、全体も少し磨いて馴染ませるようにする必要があります。磨きすぎると小傷はかえって目立ってしまうため、ある程度曇らせた仕上げにし、以降の日常の使用で、しばらくすれば光沢も落ち着いてくると思います。尚、小傷も取り、新品に近い鏡面状態にする事も出来ます。費用もその分少し高くはなりますが。


ご依頼主より送られてきた状態。良い風合いです。修正跡を全体と馴染ませるために、この色と肌合いを消してしまうのは勿体ないですが。

ロウ付け接合に使用した薬品跡
取っ手下部分
底ロウ付け接合
【磨き直し】


全体を軽く磨き、同時に薬品跡も取れないか試してみました。


やはりこびり付いた部分は簡単には除去出来なかったため、キサゲで剥ぎとります。


ピューター(錫合金)の地肌が出ましたので、小傷は取らずに全体をある程度の光沢まで戻し、その後、光沢を出来るだけ落とします。

取っ手部分-上
取っ手部分-下
内側底部分

曇らせるにはこちらで微細な傷を付け、光沢を落としますが、日常に使用する上で出来る曇り方が自然であるため、少し落としたぐらいで仕上げとしました。まだ光沢がありすぎる気もしましたが、3ヶ月もすれば馴染んでいると思います。

【お品物について】


裏にメーカー名が書かれていますが、ブランドに関してはあまり興味も無いため調べず納品しましたが、形状と重量も含めた一品の完成度には非常に興味を惹かれました。

最近は薄く使用者が曲げて使う錫製品が人気を得て、初めて錫を知る人の中には錫は自由に曲げて使って良いものだと認識している方もいます。デザイン品としてそういうパフォーマンスのモノも否定はしませんが、「器」とは呼べないのが私の常識です。形は出来上がったものが製品、作品です。絵や書に第三者が付け足したりしないのと同様に。私の「器」には第三者が形を変えて使うことを想定して制作したものはありません。破損となります。強度による形状や板厚も考慮し、模様打ちの金属の締めによる硬化などを取り入れ、形を創っています。

このビアマグも、ピューター(錫が主成分の錫合金。純錫より強度がある)の軟らかく加工しやすい反面、強度が弱い部分を補うために厚く作っています。ずっしりと重く、堂々とした佇まいがあります。口部分は西洋のビアマグによくあるように口部分が内に小さくなり、ラッパ型より敢えて呑みにくい形状ですが、鼻が容器内に入りますので香りと味がブレンドされ、味わいが深くなるようになっています。抹茶碗の縁が内に向いているものが多いのもその効果のためです。他に、口辺縁部分は最も強度が低い部分ですが、内か外になることで強度が生まれ全体の強度も増します。

底は高台と共にどっしりとした形状と厚みで、台形の全体像が安定感をもたらし、口辺部分の内に丸みのあるすぼみ方が変化となり、シンプルの中に整った佇まいを感じさせます。素材感に合った重さも重要な要素です。又、表面に装飾の無い錫の素材性のみがシルエットを引き立て、西洋甲冑に見るようなシンプルな機能美にも見えます。
本当に良い一品です。勉強になりました。