2016/12/23

鋳込み錫板製法: 特許第4484687号の特許権侵害警告事案に関して

錫板制作場
伝統錫工芸の錫器製法には、熔かした錫を型に流し込む「鋳物」と錫板を叩いたり接合して作る「板物」の大きく二つに分かれる。当工房では「板物」製法がほとんどで、その錫板(下準備)もインゴットから熔かして作っている。
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錫板は錫器製作のための板材としてだけでなく、錫板製品としても欧米で19世紀頃に石膏装飾の代わりに広まった壁材の「Tin Tile」やテーブル外装などとして使われ、日本でも磯庭園・錫門の瓦は錫板での瓦葺きであり、近年では大手錫器製造会社によるテーブル外装や壁材も行われてきた。


問題は先日十月末日頃、当工房に某金属材料会社の代理人より、私がサイトやSNSに掲載している錫板製法が特許侵害をしているため、当工房に対して錫板の製造と販売を取り止める事を要求するという警告書が送られてきた。
警告書によると、錫板を作る際に石板の使用や、石板の鋳込み接触面に和紙などの紙で覆っている事、製品の「縮れ紙模様錫板」が縮れ模様の和紙を使って製造している事が、某金属材料会社が「発明」と称する製法と同じことをし権利を侵害しているというのが主な主張であった。

当方の錫板製法は、師匠より教えて頂いた伝統錫工芸の技法で制作しており、その製法技術は昔より錫職人が伝えてきた製法である。某金属材料会社が「発明」と称し2004年に特許を取得している製法は、錫工芸では誰もが当たり前に知る古典技法そのままの内容であった。
私が独立し個人で錫板を作り始めたのは1998年頃であるが、当方には錫板制作模様を記録に残したことは無く資料が見当たらないため、過去の文献から探そうと調べるも有効な記事が見つからない状態であった。そこで京都老舗錫銀器店現当主である師匠や関西の錫業界の方々に相談し、ご協力を得、特許取得以前からの有効な資料を複数用意することが出来た。

相手代理人に、公知の製造技法である証拠となる資料も収集し、当工房は特許の有効性を争わない代わりに当職に対する主張を行わないことを求める旨の回答書を送る。後日、代理人から、「申し出を受け入れ、貴殿に対しては、上記「錫板」及び「縮れ紙模様鋳込み錫板」の製造及び販売に関して、上記特許権に基づく法的措置を講じないこととする」という回答を得るに至る。あくまでも「発明」は偶然に伝統錫工芸の技法と同内容だったことを私からの回答で知ったという。
特許取消しに持っていく事も可能であるが、当方も急なこの災難にこれ以上時間を費やすことは避けたい事もあり、先ずは穏便な解決を提案し和解へと至った。当方へのこの回答で、この特許の意味も無きに等しい。又、今回のこの問題で、錫工芸業界にも広く知れることとなり、今後このような問題が発覚すれば錫工芸発展への障害となるため対処されると思われる。



今回の件で助言をくださり多大なご尽力を頂いた師匠と関西錫工芸業界の方々、弁護士さんには深く感謝致します。